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腰の痛みを探る

 
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 「腰の痛み」と一口にいっても、患者さんの病状は本当に様々です。
前回骨盤調整についてお話させていただいたので、今回は腰の痛みの原因について僕なりにまとめてみたいと思います。

 まだ独立開業して間もない頃の話ですが、腰痛治療で本当にヒヤッとした経験が僕にはあります。腰痛は日本人男性の不定愁訴でナンバーワン。そのくらい多くの人が悩んでいる非常にポピュラーな疾患ですが、僕はこの経験のおかげでどんな些細な痛みを抱えている患者さんでもしっかりその原因を調べることを診察で心がけるようになりました。

 ある日年配の男性がひどい腰痛を訴えて来院されました。腰を痛めるような原因があったのかどうかお伺いしていつものように所見をとるべく徒手検査などを行いました。
 臨床の現場では疾患を判断する場合、いくつもの疾患から検査を繰り返しながらいくつかの候補を搾り出し、それを想定しながら治療しその結果を踏まえてひとつの疾患を断定する方法を取ることがあります。どうしてかというと検査所見によっては疾患をはっきり限定できる特異性が乏しくいくつかの疾患を完全に排除できない場合があるからです。
その時も病態そのものが非常に曖昧でした。腰の動きで痛みの再現性はあるのですが、痛みを強くするような徒手検査では痛がらない。下肢に痛みを訴えているのに神経根症状を誘発する検査では痛みを訴えない。ここで当然「?」という感じがしたのですが経験が浅かった僕は病状を優先していわゆる「ぎっくり腰」に近いと判断し、とにかくひどい痛みを取るために治療を行うことにしました。
 2回ほど治療しましたがほとんど変わらなかったと記憶しています。そのあと急にいらっしゃらなくなったので「どうしたのかなあ」と不安に思っていたところ、2、3ヶ月経ったある日突然来院されてそれまでの経緯を教えてくださいました。
実はその方の腰痛は腹部大動脈瘤が原因だったのです。神経学的所見が乏しかったわけがそれで説明できます。それまで股関節動脈の異常で下肢症状が出ることを僕は知りませんでしたが、下肢症状を訴える患者さんは股関節動脈の拍動まで診るべきだったのです。今なら見過ごさないであろうと思いますが、経験も知識もない当時の僕には限界でした。幸いその方は何軒かの病院を回った末にこの腹部大動脈瘤を発見してもらい、手術を受けて一命を取り留めたというわけです。

 この反省からその後は腰痛だろうが肩コリだろうが原因をはっきりさせるまで所見を取ることを徹底するようになりました。

 このように腰痛を引き起こす原因は実に様々あるのです。
 当院で日常的に見られる疾患だけを上げてみても、腰部筋挫傷・腰部椎間関節捻挫・仙腸関節捻挫・腰部椎間板ヘルニア・分離すべり症・脊柱管狭窄症・梨状筋症候群・腰椎圧迫骨折や坐骨神経痛などがあります。これ以外にも診察していると想定外の疾患が山ほど出てきます。前出の腹部大動脈瘤や腰椎横突起骨折・骨盤骨折・腸腰筋化膿症・腸腰筋症候群・線維筋痛症などは過去に実際診てきた疾患です。

 さらにここからが大事なのですが、腰の痛みは腰周辺の問題だけに限りません。
 皆さん背骨を思い出してください。脊柱は全部で24椎の骨で構成されています。
頭骸骨から骨盤までを繋げるこの大事な脊柱は当然ですが筋肉で支えられています。この筋肉は細かく繋がりながら全体がユニットとして働いています。つまり首と背中と腰は同じ作用をする筋肉で繋がっているわけです。ですから首や背中の筋肉の緊張は自然と腰に影響していきます。

 少し前ですが、腰が痛くて歩行がうまく出来ない患者さんがいらっしゃいました。大学病院で腰椎椎間板ヘルニアと診断されて治療を受けてきたが症状が変わらず鍼を希望されて来院したとのことだったのですが、その方は両下肢ともに麻痺に近い歩行困難という症状が強く出ていたのです。通常ヘルニアは左右どちらかに症状が偏るもので両足に歩行障害が出るのは非常に珍しい。そういう症状はむしろ脊柱管狭窄症のほうが当てはまるのですが、間欠性は行という脊柱管狭窄の特有の症状は診られません。もうひとつの特有所見であるケンプ徴候も診られなかったためこの疾患も考慮し難くなりました。

 脊柱の中を脊髄神経が通っていることは皆さんご存知だと思います。この脊髄神経は脳に近いところ(中枢)に障害が起きるとその下方(抹消)には両側に障害が起きるものです。また脊髄が障害を受けている患者に息ませると痛みやシビレの症状が出ます。この患者さんもこの検査が陽性に出ました。つまり腰椎より上位にも問題がある可能性が高い。そこで腰の次にヘルニアが多い頚椎を調べてみました。異常は見当たりません。残るは胸椎だけです。ですが胸椎部のヘルニアなんてその時まで僕は聞いたことがありませんでした。ほとんど半信半疑に胸椎に負荷をかけてみたのですが、なんとここに腰と下肢に痛みを出す放散痛を引き起こす場所があったのです。このことを患者さんに詳しく説明しご納得していただいた上で、治療を胸椎部中心に行ったところ症状の改善を見ることができました。治療のたびに症状が改善し、日常生活も歩行も楽になってきた患者さんはもう一度同じ大学病院で診察を受け、患者さんからの要望で胸椎のMRIを撮ってもらい、胸椎ヘルニアを画像上でも確認することができました。大学病院では手術を勧められたそうですが、症状が改善しているのに今更してもしょうがないと断ったそうです。(現在、椎間板ヘニルアは手術をしない保存療法も治療の選択のひとつになっています。)

 このように腰痛は背骨全体の状態が大きくかかわってくる現象でもあるのです。
腰の痛みひとつを取り上げてもその原因は非常に複雑で多様だということがこれでご理解いただけたかと思います。

 当院ではこのように腰痛というものを捉えて診ていこうと考えています。
 開業当初に患者さんからいただいた教訓をこれからも大切に、知らない疾患といつ出会ってもいいよう謙虚に一人ひとりの患者さんを丁寧に診察していきたいと思っています。
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